女性関係のスキャンダルに追われる中、名誉を回復して一気にキャリアを押し上げたいライトと、帝国ホテルを世界的なホテルにするべく、門外漢から支配人に任命された林愛作の運命が交錯して、ライト館は生まれる。
開業日に関東大震災に見舞われるというライト館の数奇な運命を、ライトと林愛作の人生からを追っていく構成だが、ライトの出自や「タリアセン」、不倫のスキャンダルなどを紹介することで、ライトにとって帝国ホテルが極めて重要な意味を持った仕事であったことが浮き上がってくる。
ライト館の欠点や耐震神話の内側についてはしっかり叙述されているが、本書はライトの建築手法、建築哲学そのものには踏み込んではいないので、ライト館の建築についての解説を意図してはいない。
あくまで帝国ホテル、林愛作との交流を軸としたライトの評伝と考えるべきで、その点については短い分量に上手くまとめており、ライトや日本近代建築の入門として理解しやすいと思う。
ライトが、自伝その他の多くの面で(特に日本との関係において)、事実を歪曲・隠蔽していることは、もはやライトが巨匠として神聖な存在になった今だから興味深い。ライトの終生抱えていたコンプレックスが、自伝と事実との隙間に見えてくるようである。
また、戦前の建築学会における辰野金吾の権勢は、本書を読んで初めて理解できた。