まあ、東大教授の本なので興味ある人は購入せざるをえないのですが、予想外が2つありました。
一つは、冒頭の小説です。これはたいへんに面白い試みです。実は欧米で最近この手の試みをするローマ史研究者がぼちぼち登場して来ていて、私などは「おおお」と思っていました。要するに19世紀的な現代歴史学の方法論(史料第一主義)が行き着くところまでいって、実に無味乾燥な科学としての歴史学に一般読者や学生が愛想を尽かしてきている事への反応ではないかと。歴史は物語なのだとは、大学入っての史学概論の初っぱなの内容でしたが、物語性へのとりあえず回帰を、研究者も渇望しだしているということなのでしょう。
ひょっとしたら、歴史書とはいえない古代ローマ史で世間を席巻したS女史への著者なりの切り返しなのかもしれません。「どうせ小説書くならこれくらい書いてぇな」と。
もうひとつは、その後の本論のはずの叙述がなぜか魅力に乏しかったことです(あろうことか、用語も不統一だし)。それはそもそも本書が研究書なのか一般向けの啓蒙書なのか、中途半端な構成となってしまったことに起因しているせいのような気がします(そういえば、彼って学位とった著書以外に学術書ってあったっけ)。
冒頭の試みが成功しているだけに、本論にもろ手を挙げて賛意を表し得ないのは大変残念なことでした(そういえば、著者の恩師弓削達氏も小説のまねごとをしたことあったような)。