本書は新聞雑誌等のために書かれたエッセイの集成というものだが、専門のイスラムはもちろん、該博な人文諸科学に裏打ちされた驚くべき知識量に圧倒される1冊だ。羨望? う〜んここまでさり気なく、しかもあらゆる領野に亘る知識の詰まった雑文集…。ただただ拝読するのみ。しかも面白く読めるのだからたまらない。イスラム学では井筒俊彦など、トンデモナイ博学がいるようだが、それを受け継ぐのがこの人ということだろう。
『ラディカル・ヒストリー』(中公新書)など、知見が古くなったことをもって読む必要がないといっている学者もいるようだが、評者のような素人にとっては学ぶところは汲み尽せないくらいだ。だいたい新書などというのは、啓蒙書であろうから。
その点本書は、さらに一層の入門編である。しかも、読者次第でドンドン深く広く進んでいける。これこそ啓蒙書である。そういう本はこのところあんまりないのだなあ。
冒頭の司馬遼太郎の短編とカフカの断章を並べるところからして、唸らされる。未だにキャッチアップ応援歌としてのみ言及される司馬遼の読者は、カフカなど読みやしないという気がするが、これこそ司馬の新たな読みを促し、カフカという元祖マージナル作家への眼を開かせる。そのさり気ない配慮がこの著者の真骨頂でもある。