森鴎外から渡辺淳一まで医師出身の作家は数多い。それは、人間の生死という根源的な部分に携わる、医師という職業の持つ特異性に由来していると思われる。また、文章を紡ぐという行為が、論理の構築から結論を得るという、極めて理系的作業の積み重ねであるという点も見逃せまい。
さて、当作家も医師出身だが、当作品を読んだ限り、どうやら序段で述べたどちらのタイプでもないようだ。死を見つめながらも、殊更それを掘り下げることなく、客観的かつ叙情的に表現するに留めている。老婆と少女のふれあい、母子の愛といったある意味使い古されたテーマに対し、作者の価値観を押し付けることなく、自然な語り口によって読者の感性にそれを委ねている。挿絵画家とも共通した、natural tenderness とでも言える感覚で全編をまとめることにより、心地よく読者はその雰囲気に浸ることができるのだ。
本作の骨格となる“希望小路”についても、最小限の描写におさえ、ここでも読者に無限の余地を与えている。読者はふと考えざるを得ないだろう、自分にとっての希望小路はなんだろうと。人間は本来 tenderness を持っているはずである。物質的充実を追うばかりに、精神的安静を失ってしまった現代人は、それに気付くことから始めなければならないのだ。
この作品は”失ってしまった希望小路”探しの旅へと読者を誘うであろう。作者の書いた処方箋は見事に成功したのである。
Pastiched by S, F,