2002年、失業率は7%を超え、円が150円まで下落した日本経済を背景に、パキスタンで地雷処理に従事する16歳の少年「ナマムギ」の存在を引き金にして、日本の中学生80万人がいっせいに不登校を始める。彼らのネットワーク「ASUNARO」は、ベルギーのニュース配信会社と組んで巨額の資金を手にし、国際金融資本と闘い、やがて北海道で地域通貨を発行するまでに成長していく。
少年犯罪の凶悪化、学級崩壊など、さまざまな教育問題が噴出し、「学校」「文部省」「親」と責任の所在をたらい回しにする世間を尻目に、子どもたちは旧来の前提に縛られた大人の支えを必要としないことを立証する。『愛と幻想のファシズム』では、システムの破壊を目的とした狩猟社は、その過程で自身がシステム化していくという自己矛盾を抱え崩壊した。「ASUNARO」もまた崩壊の予感が示唆されているが、今回、著者はその手前であえて筆を置く。子どもたちには「希望」を与え、大人たちには「絶望」を突きつける。「ASUNARO」に拮抗するシステムを、今度は社会や大人たちの側が提示する番である。(中島正敏) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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10 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
真面目だった村上龍,
By mmidorikawa (大阪府豊中市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 希望の国のエクソダス (文春文庫) (文庫)
村上龍については、「鼻もちならないバンカラ」という一方的な思い込みを長い間持ち続けていたわけですが。 このところテレビ番組「カンブリア宮殿」を見るにつけ、真剣に国を憂う おじさんとしての村上龍に、意外な親しみやすさを見つけるにいたったと。 当てずっぽうで読んでみた一冊でしたが、これは間違いなく「真剣なおじさん」に なってから書いた作品ということがよくわかります。「初期の村上龍のほうが もっとむちゃくちゃでよかった」とこぼす人は、私の身の回りにもいました。 日本の中学生80万人が一斉に学校に行かなくなり、ネットワークを通じて 連携をとって、次第に資金力発言力を高め、最後には北海道に移住する というファンタジー。この過程が、現代の経済の実態に即して描かれているので、 かなりしっかりした経済講義が作品中に頻繁に展開されることになる。 講師は主人公の恋人由美子。主人公との子を堕胎した喪失感を埋めようと するかのごとく経済の勉強をはじめ、ライターとして精力的に活動している。 新聞を読んでぼんやり経済の話が分かるというレベルでは、かなり難しく 感じると思うし、主人公もライターの割には経済音痴という設定のようで、 由美子の話を呆然と聞くこともしばしばだ。著者としても、読者が主人公の ように呆然と読むことを想定しているんじゃないだろうか。 そんな斜め読み混じりの読後、印象に残るのは、中学生の集団不登校、 経済への大きな影響力についての、日本人の反応の鈍さの描き方だ。 別に村上は、読者に経済の勉強をもっとしろということが言いたいのではなく (ちょっとは言いたいのかもしれないが)、いろいろなことに対しての 危機感や感受性が日本では摩耗しすぎているのではないかという焦燥 こそを表現したかったのではないか。 ま、自分で理解できた部分をつなげるとそういう解釈になってしまう だけなのかもしれないが。わかんないところは主人公と同じように、 素直に呆然としましょう。生真面目に読まなければ、結構面白いと思う。
34 人中、27人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
やっぱり中学生に読んで欲しい。,
By カスタマー
レビュー対象商品: 希望の国のエクソダス (単行本)
「荒唐無稽で現実味のない物語」という評価は、言葉づかいをちょっとシフトすれば 、「夢があり、希望にあふれる物語」になる。その評価そのままに、これは児童文学 の傑作だと思う。アフガンゲリラに参加した日本人少年をきっかけに、日本中の中学生がすべて不登校 に入る。彼らは「あすなろ」と名乗り、インターネットを駆使して新たなビジネスを 起こしていく。一方、沈滞する政治、経済、社会に悩む日本政府は、アジア通貨圏の 構築に突き進むが、これがヘッジファンドに狙われ、日本経済は危機的状況に陥る。 そして、不登校の中学生集団に過ぎなかった「あすなろ」が、このとき大きな役割を 果たすことになる...。 やっぱり中学生に読んで欲しい。最新の経済事情、インターネット、料理に関するウ ンチクなど、中学生には難しすぎるところも多いが、背伸びしないで読めるものばか りが好きな子供がいるだろうか。 それにしても、村上龍の「気配」の表現は本当にうまい。飲み物を買いに行くリーダ ーが感じさせる「あすなろ」のゆるやかな結びつきや、友達気分で彼らにつきあう大 人がやがて敬遠されるようになったり、ナマムギの銃撃のシーンでの不釣り合いなシ ーソーのくだりはうならされる。特に、衛星中継での国会質疑の場面で、ポンちゃん が「この国には本当になんでもある、でも...」と話し始めたときには、背筋が寒く なった。 思うに小説の悦びはこのような、読むものを別のどこかへ、自分の知らない場所へ、 一瞬で連れていくような、一行の言葉に出会うことではないだろうか。小説の残りは すべて、この一行を最も有効に提示するために書かれるのであって、読むということ も同じことだろう。 不登校、インターネット、不況などのモチーフに惹かれて、この小説を読み始めた中 学生の心に、これらの言葉がそれと意識することなく沈潜していくのかと思うと、わ けもなくうれしい。 社会へのコミットメントが最近目立つこの作家だが、直接的な行動とは別に、言葉の 力を信じる者として、小説にこだわる姿勢に頼もしいものを感じる。
3 人中、3人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
少し残念・・・・かな?,
By
レビュー対象商品: 希望の国のエクソダス (文春文庫) (文庫)
中学生達の反乱→自立を経済と絡めて描かれた作品。なかなか読み応えはあったのですが、冒頭に感じたドキドキ感が続きませんでした残念です。 また同氏独特の文体も少なく経済学を持て余し気味かなぁと感じました。ただあまり経済学ばかりを突っ込まれ描かれていたら読む気を失っていたかもしれません、そういった意味では適度だったと思います。 ただの殺し合いや暗い内容の作品が多い昨今において希望を感じさせるエンディングは読後感が爽やかでした。
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