そんなに期待せずに、侍とパリコミューンという組み合わせが面白いなと買ってみました。
本作がデビュー作ということで、小説としては粗削りで、伏線とか心理描写とかはまだまだ未熟、時代小説としても、舞台を十分には活かしきれてはいません。龍馬、龍馬という使い方も、正直鼻白むところもありました。★3つもギリギリです。
しかし、読み進むにつれ、グイグイと作品に引き込まれ、頁をめくることが止められなくなる自分に気付きました。
普仏戦争、パリコミューンといった日本人に馴染みの薄い舞台設定を、分かりづらいと思わせないように、思いっきり最小限な描写にしたことで、逆に違和感なく読めるということ。
過剰な描写や伏線がないことも、駆け足の展開と相まって、粗削りな作りを一気に読ませる作りに変えています。
wikiとかレキジョな浅い知識を賢しらに並べただけの、最近の新人作家の歴史モノより、よほど臨場感があると思えて来ました。
主人公があっさりと独白してくれるテーマ的なものも、パリコミューンにラ・マルセイエーズを被せることで、フランス革命の理念と上手くつながってもいます。
こういう歴史を骨太に受け止める作者の今後に期待して★4つです。次回作も歴史モノだといいなぁ。
ちなみに、この作者は歴史に疎いわけではなくて、日本人の登場人物を全て官軍・勝ち組で並べた妙(主人公らが幕軍だったら、それだけで月並みな展開になる)、主人公の仲間が射撃の名手という設定が彼が官軍を途中で抜ける動機を見事に裏打ちしている、そんなあたりは、幕末・明治史を齧ったものには「オヌシやるな」と思わせるところです。
最初の舞台が幕末パリ、フランス革命の理念に共感する主人公の侍、体制をよしとせず身一つで戦い駆け抜ける主人公。
これって、山田太一脚本の大河ドラマ「獅子の時代」を彷彿とさせます。
ああいうしっかりした歴史舞台での想像の翼を広げた作品を描く人に育って欲しいなぁ、月島総記さん。