本書は、行動生物学の一分野(データ収集の一手法)である、データロギングサイエンスの啓蒙書である。
データロガー (Data Logger) とは、一般名としては各種データを計測・保存する計器のことである(ウィキペディアより改変引用)。 著者が使っているデータロガーは、行動生物学のデータ収集のため超小型の記録装置(即ちData Logger)で、行動の多くを直接は視認・観察できない鳥類や海生動物の、運動時の加速度、環境温度、圧力センサー(潜水時の水深)などを動物自身に記録させ、後で装置を回収・分析するものである。
この研究の成果が一般読者向けに発表されたのは、2007/08の前著『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』(光文社新書 ISBN-10: 9784334034160)で、記憶に新しい。
私が本書の中で最も衝撃を受けたのは第5章で、従来の通説では木に登らないと飛び立てないとされていたオオミズナギドリが、実は直接飛び立てるのであり、そしてオオミズナギドリの研究者の間では、直接飛び立つ行動は既に知られていることであった・・・の、くだりである(p.174-183)。
私はオオミズナギドリを観察したことがないので、偉そうなことは言えないが、愛用の「北海道野鳥図鑑 (亜璃西社 2003/06 ISBN-10:4900541516)のp.364にも『翼が長く脚力も弱いため、直接地面からは飛び立てず、斜めに延びた大木に嘴と足指の爪を使ってよじ登り・・・』と、見てきたように書かれている。どこかからの孫引きであろうが、私もすっかりそれを信じ込んでしまっていた。
念のため、日本野鳥の会の公式図鑑とも言うべき「フィールドガイド日本の野鳥」(日本野鳥の会; 増補改訂版 2007/11 ISBN-10:4931150411)を見ると、さすがにそのようなことは書いていない。もっとも、スペースの関係かも知れないが。
この件については著者は目視でオオミズナギドリの離陸行動を確認しているので、データロガーは直接関係していないとは言え、通説も疑え、ということを改めて教えられた。
ガンカモ類を観察していると、1000g前後しかないカモは水上でも陸上でも、助走なしで、まるでハトのように軽やかに飛び立つの対し、重いハクチョウは、風があるときでも旅客機が飛び立つように風上に向かって雪原や水上をエッサホイサと暫く滑走して、やっと飛び立つのだ。(Voegel ISBN-10:3774240639 によれば、オオハクチョウの体重は7-12Kg,オナガガモ600-1100g)
このへんの飛翔の仕組みが、本書では航空力学や生物学の素人にも納得できるよう、豊富なグラフ、図、色々な鳥の実例を使って説明されており、一般読者にも分かり易い。