妖しい。艶かしい。匂やかで密やかで官能的な作品世界だが、
そればかりが前面に押し出されず、むしろ、十六歳の桜蔵(さくら)の
少年らしい硬さが浮き彫りにされるようだ。
男同士が忍び逢うための宿「左近」の桜蔵をめぐる12の連作短編奇譚集。
表紙装画は望月通陽氏。『こどものころにみた夢』(講談社)でも
長野さんと組んでいた望月さんの絵のたたずまいも絶妙だ。
シックで、抽象画のようだが妙にかわいらしくもある。
桜蔵をとりまく男たちの不思議さ。
義父を始めとする彼らは、クールで知的で思いきりエロティックで……。
彼らはなんとか桜蔵に、内にもつ資質を折にふれ知らしめようとするのだが、
桜蔵自身はこの世のものではない者たちに、幾度逢っても馴染まない。
するりと桜蔵に忍び寄り、いつしか現を幻と化してみせるあやかしの者たち。
くにゃりと目の前が歪み、知らぬ間に反転し、摂り込まれるような長野さん独特の世界が
この物語にもやはりある。
現実世界と異界とが自在に入り乱れるさまが引き立ち、読み手の脳裏に陰影を遺す。
異界と現の世界の滲むあわいに魅力があるのだ。