川端賞の対象ジャンルは短編小説である。本書には第1回(1974年)から第13回(1986年)までに受賞した作品が17編収められている。またそれらとあわせて、巻末に各回の選考委員の選評がすべて収められている。受賞作のすばらしさもさることながら、選考委員たちの選評もそれぞれが個性的で滋味に溢れている。
例えば、委員の一人である中村光夫の「ひとつの水滴に大空が映るように、現代文学の動きがここに見られるのも確かである」という比喩は秀逸である。私は中村光夫や山本健吉の言葉に接するのはこれが始めてであったが、感心しきりだった。また吉行淳之介のコメントもどこかおどけた調子が滑稽で、そういう意味で「らしさ」が出ている。軽妙洒脱とはこういうことをいうのだろう。このように選考委員たちの言葉がすべて掲載されており、いちいち読むのが楽しい。
さて、このような立派な選考委員たちが選んだ作品であるから、どの作品も傑作である。円熟味を帯びた作品が目白押しで、マエストロたちの饗宴といった観がある。そのなかで私が気に入ったものを挙げるならば、永井龍男「秋」、和田芳恵「雪女」、野口冨士男「なぎの葉考」、島尾敏雄「湾内の入江で」である。特に、「秋」などは芸術の域をほとんど超越した出来栄えになっており、読後の余韻にはこの上ないものがあった。
蛇足だが、こういうアンソロジーが文庫化される日が来ることを望みたい。