1939年制作の作品とは思えないほど、現代的テイストのある愛憎劇といえるかもしれません。「好きだけれど、自分の中には素直にそれを認められない欲望が潜んでいる。」幼少のころからはぐくんだ愛を大切にしながらも、物質的世界へのこだわりから愛する人を裏切るヒロイン、キャシーをマール・オベロンが熱演。怒る表情も、涙に濡れる瞳も、病に倒れゆく姿も力強いリアルさ。彼女の愛に裏切られながら、いっかいの馬丁から身を興してまでして強引に愛を貫き通そうとするヒースクリフをローレンス・オリビエが舞台劇よろしくしっかりと、しかしクールに演じています。この人物のキャラクター造形も、自分を裏切った恋人に対する愛憎に満ちていて、物語に相応しいアンバランスさがよく表現できていて迫力があります。また、語り部であるお手伝いの老女に扮したフローラ・ロブソンの演技も哀愁があり印象的です。キャシーの夫エドガーを若き日のデヴィッド・ニーヴンが演じていますが、その後の飄々としたイギリス紳士としての個性がすでに垣間見えます。
巨匠ウィリアム・ワイラー監督はエミリー・ブロンテの原作にある怪奇性をいささか弱めてはいるものの、彼得意のダイナミックな演出により役者の迫真の演技を十分に引き出せている印象をうけます。このあたりが、キャラクターたちの複雑な心の葛藤が明確に伝わってくる原因だと思われ、わかりにくくなりやすい愛憎劇が理解しやすいものになっています。『市民ケーン』の名カメラマン、グレッグ・トーランドの撮影は見事のひとこと。特に室内から見える屋外、屋外から見える室内の光のコントラストによる美しさはさすが。また恋人たちが“城”とよぶ岩山での風景描写はスペクタクル映画なみの重厚な雰囲気をかもし出しています。アルフレッド・ニューマン作曲による音楽はいささかメロドラマ色が強く甘すぎるきらいがありますが、効果的に配されてはいます。
恋人たちと、彼らをとりまく周囲の人々の複雑怪奇な心の葛藤が美しい風景のただ中でドラマティックに進展していく本編は、現代でも十分通じる重厚な愛憎劇。やはり名作として記憶にとどめておいていい一本でしょう。