紀行文にもいろいろなスタイルがある。よくあるのは、初めて行く土地で、初めて見たもの、聞いたもの、体験したことへの驚き、感動、戸惑いをつづった「ドタバタ珍道中」もの。これはこれで面白おかしくて好きだが、本書は違う。著者の島への思いや知識には、ただならぬ「厚み」があるのだ。
著者はなにしろ30年以上も前から屋久島、トカラ、奄美の島々へ繰り返し足を運んできた島旅のプロ。彼が今回は、作家でアメーバブックス新社編集長の山川健一氏(高校時代からの友人でもあるらしい)らと、この本を書くために新たに訪ねている。
基本は、息の合った仲間との、ときにはミステリーツアーの様相も帯びる、臨場感あふれる道中記。その中に、いままでに重ねてきた旅の記憶、豊富な知識(食文化、植物、産業、精神文化、等々)、そして島に流れる時間や、島に住む人々や著者自身の人生までもが随所ににじんでいる。
と言っても懐旧に浸っているわけでもない。何度も訪ねている場所で、また新たな発見をしたり、出会いを楽しんだり、小さな変化に驚いたりしている、好奇心も感性も豊かな著者の姿がある。
屋久島での「ヘミシンク」体験(これまた高校の同級生だという坂本政道氏も同行)や、奄美大島の妖気漂う森で謎の二人に出くわした話も面白かったが、私自身はトカラ列島に住む人々の話が一番面白かった。
昭和40年代に理想的なコミューンを作ろうと都会から移り住んだ当時の若者が、いまはどのように島に定着しているのか。医師も助産師もいない島で、女性たちはどうやってお産や育児に臨んでいるのか。
遠い秘境ではあるが、人々はたくましく「当たり前の生」を営んでいる。トカラのことをもっと知りたくなった。