今のところこれに比肩する哲学事典はないといっていいだろう。古今東西の哲学・思想の項目が網羅されており、執筆していのもその道の泰斗ばかりであり、説明も解りやすく、それでいて格調が高い事典である。
ではここでひとつ、他の哲学事典について触れてみよう。
A.平凡社『哲学事典』:1960年代以降の、いわゆる「現代思想」について、あまり(ほとんどか?)記述がない。また徒に晦渋なところがあり、この事典を使うために別の事典が必要になるということが、ままあったりした。しかしオーソドックスであり、やはり格調が高いものだと思う。
B.講談社『事典 哲学の木』:新しい事典である。これは項目を引いて調べる類の事典というより、むしろ読み物を集めたものと言うよう。網羅的でも教科書的でもない。中沢新一、大澤真幸といった、比較的若く、独自の(クセの強い)論説を展開している人も執筆している。汎用性という点で△。
C.弘文堂『ラルース 哲学事典』:フランスのラルース社が編集したもの。その翻訳。装丁は立派だが、教科書的で、深みがなく、つまらない。良い点は、複雑な問題を説明、整理するために、表を多く用いているところである。原本『LAROUSSE Dictionnaire de la phlosophie』はペーパーバックの薄い本である。原本には写真が多数載せられているのだが、この日本語ヴァージョンでは削除されている。
D.三一書房『新版 哲学・論理用語辞典』(思想の科学研究会):大変個性的である。呉智英お奨めの一冊である。扱われている項目数は少ないが、高校生でも読めるくらい、易しく、クリアカットに書かれている。かといってレヴェルが低いわけではない。執筆者のひとりに鶴見俊輔がいる。これは豆知識。
E.岩波書店『岩波 哲学小辞典』:『岩波小辞典』シリーズのひとつ。古い。マルクス思想寄り。簡潔ではある。「辞典」というより「用語集」の趣がある。付録として「記号論理学への手引き」「古代哲学、スコラ哲学参考地図」が付いており、前者に関してはかなり役に立つ。
F.富士書店『哲学入門 哲学基本事典』:これも個性的。「一編 西洋哲学史概説」「二編 著名哲学者一覧」「三編 哲学基本用語」の三編から成っている。「一編」は読み物。あとは普通。
G.青木書店『新装版 哲学辞典』:マルクス思想に則った哲学辞典。
などがある。しかし、そんなにたくさんの事典を買い揃えるよりも、少し高価でもこの『岩波 哲学・思想事典』一冊求めるのがよろしい。より専門性の高いものを求めるのであれば、弘文堂の『フランス哲学・思想事典』『現象学事典』『精神分析事典』『カント事典』『ヘーゲル事典』『ニーチェ事典』などに進まれるのがよろしかろう。