宮尾登美子が高知を舞台とした自伝小説「櫂」→「寒椿」に至る五つの作品の中に出てくる岩伍は、登美子の父がモデルで、芸妓、娼妓紹介業を営んでいた。今では死語である世にいう女衒である。
本書はその父が丹念につけていた14冊の日記と、営業日誌を元にして話を作ったもので、岩伍の語りとして四つの短編よりなる。
芸者の紹介という世間からはまともに見られない職業だが、本人はいささかも悪びれず、貧乏な人達を救うという信念で行動しており、紹介先の妓楼に対する信義も厚い。
登美子の幼少時の話であり、断片的おぼろげな記憶もあろうのに、書くにあたり今は無き花柳界のしきたりなど恐ろしく詳しく調べたものだ。退廃的な世界の中でも変わらぬ人間の生き方が細やかに描かれ感動する。
これら作者の基部をなす作品群で未読は、あと「菊籬」「寒椿」を残している。若いころ題名を見ただけで敬遠していた作家だが、テレビドラマがきっかけで「天璋院篤姫」より読みだして昨年より13冊。どれもだれた所がないのに毎回驚かされている。