今までにない豊富な資料を駆使した評伝。資料的価値は極めて高いだろう。
ただ、著者は「斬新な山県像」を提示しようとするあまり、ちょっと勇み足を踏んでしまったのではないだろうか。
山県にまつわるエピソードには、山城屋和助事件のようにおよそ褒められないものも少なくないが、どうも「愚直だが根はいい人」といった人物像を引き出そうとするあまり、そうした負の面の記述が意図的に(資料の豊富さにもかかわらず)軽くなっているような印象を受ける。つまり贔屓の引き倒し、といった印象を受けてしまうのだ。
既刊書とのバランスを取るためなのかもしれないが、それはせっかくの本書の価値をかえって下げることにならないか。力まずオーソドックスな評伝として書いていれば、充分に星5つ付けたくなる内容なのだが。また、著者は小学館日本の歴史の「政党政治と天皇」では、そうした語り口で成功しており、できないことではないはずだ。それともこれは新書編集者の趣味なのか。
もっとも著者は、山県の生涯を調べて行く中でその愚直さにのめり込んだとあとがきで述べている。うがった見方をすれば、そういう著者ならではの愚直な勇み足、ということなのかもしれない。