著者の長女佳織さんの誕生から中学一年まで、昭和29年から昭和42年までの日記。佳織さんが結婚で家を出ると決まったとき、贈られたもの。こまめに日記をつけていた著者には「戦中派不戦日記」など戦中戦後の記録としても価値のある、素晴らしい描写の日記が出版されているが、この一冊も素敵な日記である。常の日記の中から、子供に渡そうと思い立ち、忙しい執筆の合間をぬって抜書きをしていたであろう作者の姿、「父」の背中、「物書き」の背中がみえる。淡々と綴られた日記だからこそみえるものがある、父親の育児日記、というのもいいものである。
子育てからは誰もが何かを得るもの。著者も、子供の突然の大人びた言葉にどぎまぎもする、病気や小学校受験に心悩ませたりもする。著者らしいのは、そんな中にちらちらと人間を見る冷静な感想が覗くところ。この時代の子供の欲しがったもの、値段なども書き込まれ、これもまた時代の記録だろう。長女の誕生も「なんだか原稿にクタビれて感動する元気なし。」と書いてしまうのは、そのころ執筆に忙しかった著者の正直な姿であり、「働きづめのお父さん」一般の姿が重なってみえる。
子育て中の人、手元を離れていこうとする子供のある人、そして離れていこうとする人。ずっと昔にそんな経験をした人。きっと誰にも、親と子の関係をもう一度思い返し、その人だけの思い出へのきっかけをこの本は与えてくれると思う。
「父を想って」と題された、佳織さんのあとがき代わりの文章もやさしくてとても素敵な文章である。自分の子供時代をさらされる恥ずかしい気持ちを抑えて、素敵な日記を公開してくださったことに感謝したい。
編集者の発案と思うが、見開きの右小見出しに西暦、左に昭和で年号が記されているのは、時代がわかりやすかった。一年ごとに、その年の著作などもまとめてあり、親切。