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16 人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
手頃な短編集,
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レビュー対象商品: 山椒魚 (新潮文庫) (文庫)
「山椒魚」(幽閉)は、若き太宰治をして「埋もれたる天才」と評せしめた小品。その佇まいは飄々としながら屈託している、独特のユーモアのなかに含羞がある。それは「山椒魚」に限られない、井伏鱒二その人の佇まいである。氏は生前、詩人と呼ばれることを非常に悦んだという(河盛好蔵「人と作品 詩人井伏鱒二」井伏鱒二『厄除け詩集』講談社文芸文庫113頁)。その反面、自らの詩については「詩のような形」で書いた、というはにかんだ言い方でこたえている(大岡信「こんこん出やれ―井伏鱒二の詩について」同138頁)。むぅ。井伏作品の読後感のように、なんともいえない微笑みが、思わず漏れ出てくる。 井伏氏には拭い難い厭世癖があった。それを受け容れる寛容さがあった。氏の作品中には、善人ばかりが出てくるわけではない、かといって、極悪人が出てくるわけでもない。しかしどの人物もなぜだか実にほほ笑ましく見えてしまう。一種のノスタルジーがそうさせるのかもしれないけれど、過去を美化したり否定するようなズカズカとしたノスタルジーなどでは決してない。厭世癖は、あくまで厭世癖であった。世の中を軽蔑しきれなかった。冷ややかな現実観察には常に温かさがまとわりついていた。 この『山椒魚』には、短編の代表作が収録されている。ただ、「鯉」は収録されていない。それは岩波文庫版を参照されたい。己のなかに厭世癖を感じ取る人、何気ない温もりが嫌いでない人、井伏作品を読んだことのない人には、お勧め。有名な『黒い雨』よりこちらのほうが、私は好きである。しかし「駅前旅館」はじめ、井伏作品が最近絶版気味であるのは、少々もの哀しい気がする。
8 人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
「心象風景」。,
レビュー対象商品: 山椒魚 (新潮文庫) (文庫)
私は「屋根の上のサワン」が、自分の読んだ短編の中で一番好きだ。…主人公の経歴など一切、言及しない。ただ孤独で陰鬱である、と いうことしか語らない。そんな彼を代弁するかのように、貪婪な赤月が 今夜もまた昇る。傷つける雁のサワンは今夜も夜空に向けて絶叫する。 僅か数ページに、この上なく、うら哀しい気持ちが、今夜もまた 胸を締めつける…。
1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
井伏鱒二作、『山椒魚』の大きさ,
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レビュー対象商品: 山椒魚 (新潮文庫) (文庫)
《山椒魚は悲しんだ。彼は彼の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、 頭が出口につかえて外に出ることができなかったのである、、》 この一文で始まる表題の短編は、私にとって、最も重要な日本文学作品です。 本作の含意するもの、比喩、隠喩などに読み込むべきことを考慮した際、 これほど肝の据わった時代(権力)批判を果たし得た作品を私は他に知りません。 清冽な自然感性の中に寓意豊かに示される生存の孤独、悲しみ。 それへ擬人化された山椒魚や蛙の命運は、畢竟、我々の生きる社会の閉塞と、 悲哀そのものを証し立てています。 本作は後年、自選全集収録に際して井伏自身によって末文の部分、 「ところが山椒魚よりも先に(中略)おこってはゐないんだ」が削除され、 各方面より批判を主だった議論が巻き起こりました。 これは今更をどちらでもよいのかと思います。むしろ読者のみなさんは、 この話の更に後のイメージを想起できるのではないでしょうか。 つまり、それが悲しかろうとなかろうと、許し合おうと合わなかろうとです。 うっかり閉じ込め、閉じ込められたお互いは、自然(生存競争)の只中に於いて 敗者であり、それへ朽ち果てるのだということです。 井伏鱒二がこうした寓話に含めたことの空恐ろしさや生(自然)の本性を一々表すのは 野暮ですし、容易でもありません。それは読み手に従って幾らでも豊かなものに なるものと思います。その意味で、手にして如何なる再読にも耐え得る名作群 なのだと思います。 尚、ノーベル文学賞の候補者でもあった著者ですが、受賞辞退の意を 公言していたことも、当時としては有名な話です。
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