「決定版」と銘打つにはそれなりのわけがあります。
SFというかアンチユートピア小説の古典中の古典。したがって翻訳も戦後間もない頃を含め多くの訳が存在しています。ここで問題になるのがそう、旧共産圏の作品であるということ。
検閲校閲の嵐は、遺伝学に汚点を残すルイセンコ騒動にとどまらず、チェコ動乱に揺れたチャペックの作品にも容赦なく襲いかかります。今となってはどの版か確定できませんが、昔の翻訳のテキストとなった古いロシア語翻訳-ソ連版では多くの(表題にあるような自筆によるユーモアあふれる「挿し絵」も含めて。チャペックは日本語なんか読めなかったのですが、雰囲気を出すためにか、何かの日本語テキストを写した挿し絵を入れるほど念が入ってました。)過剰演出や体制批判ととられかねない表現が削除されており、チャペックの毒とユーモアに満ちた語り口が薄まってしまっています。
30年近く前、古本屋で入手した「世界SF全集」の1冊で、エレンブルクの「トラストDE」という同じようなもの悲しいアンチユートピア小説と合本になっていたほぼ完訳版を手に入れたのですが、これをチェコ版も参照しながら手がけたのが本書の栗栖氏でした。
その後文庫版を手にとって上記した「薄まり具合」にため息をついた記憶があり、本書は今ではもう入手できない「全集」版の系譜につながる「濃さ」を手軽に味わえる点で本当にお得です。