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山椒魚・遙拝隊長 他7編 (岩波文庫 緑 77-1)
 
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山椒魚・遙拝隊長 他7編 (岩波文庫 緑 77-1) [文庫]

井伏 鱒二
5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (3件のカスタマーレビュー)
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登録情報

  • 文庫: 157ページ
  • 出版社: 岩波書店; 改版 (1969/12/16)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4003107713
  • ISBN-13: 978-4003107713
  • 発売日: 1969/12/16
  • 商品の寸法: 14.8 x 10.6 x 0.6 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (3件のカスタマーレビュー)
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15 人中、14人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
ご存知井伏氏の短編集。氏の軽妙なユーモア、余韻を残す文章、詩人の眼による描写を堪能することができる。他にもいくつかの出版社から出されているが、同じ文庫でも値段や収録は様々。一番手頃でメジャーなのは、新潮文庫の『山椒魚』だと思うが、残念ながらそこには、この岩波文庫収録の「鯉」や「遥拝隊長」は収録されていない。勿論、岩波文庫にはない短編も新潮文庫には収録されていたりするのだが。

他の文庫になると、やや高くなる。本当は、そんなに長いものではないのだから、新潮文庫や岩波文庫でもう少し載せても良いように思うのだけれど。

「山椒魚」や「屋根の上のサワン」、「へんろう宿」といった収録作品が新潮文庫とかぶっているのが難点ではあるが、井伏作品が好きな人には「鯉」や「遥拝隊長」は外せないと思う。「丹下氏邸」なんかも、本書には収録されている。あまり高い本ではないので、新潮文庫を持っている人でも買って損はないはず。
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6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
「山椒魚」は井伏鱒二の代表作と知ってはいましたが、初めて読んでみて、その短さ(正味10ページ)と複雑な山椒魚の気持ちや感情の揺れを、まるで山椒魚が人間であるかのように表しているところに大変興味を持ちました。
この本には、その他、「鯉」、「屋根の上のサワン」、「休憩時間」、「夜ふけと梅の花」、「丹下氏邸」、「槌ツァと九郎治ツァンはけんかして」、「へんろう宿」、「遥拝隊長」の短編7編が収録されいます。
特にお気に入りは「槌ツァと九郎治ツァンはけんかして」です。子どもたちがお父さん、お母さんをどのように呼ぶかで、その村での階級的区別がつき、少しでも上の階級を目指すために、東京や大阪の言葉を取り入れようとする、明治初めの村でのちょっとした流行を、当時少年だった作者の目を通して、まじめに、かつ面白おかしく書いています。今でも地方にいけば多少なりともこのような話がありますが、あまりにも画一的、平均的でつまらなくなった現在の日本語を考えると大変興味深い短編だと思います。
このレビューは参考になりましたか?
1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
「遥拝隊長」のみについてコメント。

フィクション固有の可能性をふんだんに生かして、
戦争の狂気の隠れた一面に光を当てることに成功している。

発狂した軍人(悠一)は、実は、トラックからの転落事故前から
すでに狂人化の過程を徐々に歩んでいたのではないか、と思われる。
転落事故はその過程を一気に進めたのだろう。
そしてそのような狂気の状態でも、当時の軍務では実は異様に見えなかった。
極端に言えば、全てが狂っていたからである。
そしてそのような狂人化のプロセスを進んでいたからこそ、
悠一のような特にとりえのないような人物が、
軍内ではやい出世(少尉)が可能だったのだ、という含みも感じられる。
この悠一はことあるごとに執拗に東方遥拝を繰り返し、
目下のものには高圧的に接し、
かといって高邁な人格の持ち主でもなく、意地汚い。
宴の出し物には故郷の童謡を繰り返し歌う以外に芸がない
という精神的な幼稚さもある。
戦争をほんの微かに揶揄したと思われる言葉をなにげなく口にした
部下にビンタ付きの説教をしたため、事故もからんで、その部下を死なせてしまう。

井伏鱒二の慧眼は、悠一の母やその村の空気にまで、
悠一を生み出した原因の一部を帰しているように思われる。
寡婦となった母は、旅館で売春もかねながら蓄えた豊富な金で、
自宅の門に田舎には不釣り合いな高い「コンクリートの」柱をたてる。
さらにワザと大きな音を出す鉄製の釣瓶縄を、そのお金で、井戸にすえる。
村人にその音がよく聞こえるように、わざと何度もその井戸をつかう。
そしてそのような「コンクリート」の柱を褒める村長。
この母親にとりついていた
何か非常にたちの悪い狂気の不気味さが感じられないだろうか。
この不気味さを浮き上がらせた井伏の能力はすばらしい。
ようするにこの母親は、不釣り合いなコンクリートの玄関の高い柱や、
見栄を誇示するために不快で大きな金属音をたてる鉄の鎖のように、
我が子を、悠一を育てたのではないかと想像されるのである。

どこにもあるような田舎の村の母子にとりついた
悪魔的な狂気の根源を確実にとらえることができなければ、
当時の日本を襲った狂気を、完全に取り除くことは不可能であるし、
その狂気の正体をつかむことは想像以上に困難なのだ、
という井伏の苦悩が感じられる。
その嗅ぎ当てられた暗黒の深さ、正確さ、独自性において、
この小篇は日本文学史の中で決して奪われることのない
地位を確保しつづけるであろうと思われる。
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