助監督の田中徳三さんの言によれば、溝口本人は決して乗り気で創った作品ではなかったようです。 確かに“祇園の姉妹”“残菊物語”“西鶴一代女”という、女の悲哀と気概を描いた一連の作品と比べれば、必ずしも溝口の得意とする世界観を扱った作品とはいえないのかもしれません。 しかしこの時期、まさに創作意欲の絶頂期にあった彼は、予算をたっぷりかけて第一級のスタッフを手足のように使えるという幸運にも恵まれ、“女の悲哀”というやや世俗的な作風をつきぬけて、これこそが日本古典美の真髄なのだーということを西洋人にまで知らしめるような格調の高い作品を造りおおせました。 この作品についてフランソワ・トリュフォーが、何故これと“七人の侍”が(ヴェネチア映画祭で)同点銀賞なのだ? “山椒大夫”のほうが格段にすぐれているーとまで発言したのは有名です。
なんと言っても香川京子さんが入水して果てる場面の宮川一夫さんの水墨画を思わせる画面造り(画面前方の竹には墨を塗っているそうです)や、ラストの厨子王と母親の再会の場面とそこに流れる早坂文雄氏の音楽が絶品です。 この映画を映画館で一度だけ見た私は背中に震えが来てしばらく立ち上がることが出来ないほど感動してしまいました。 DVDでの単品発売、待ちに待っていました。 まだご覧になっていない方、必見ですよ。