1980年代の後半、山本容子の銅版画を見るために雑誌『Switch』を買っていた時期があった。ジョン・ベルーシの特集とか、サム・シェパードやウィレム・デフォーのロングインタビューにも心が躍ったが、それに劣らず山本容子のどこかシャガールを思わせ、ヨーロッパ的な異国情緒がある絵と、それに添えられた文章にもワクワクしたし、ジャズを流しながら彼女の新作を眺めるのはとても心地よかった。
そんな至福のひと時が丸ごと楽しめる一冊が出版された。月刊誌『セブンシーズ』で2年にわたり連載されていた「Jazzing」が本になったのだ。『マイ・ファニー・バレンタイン』『アンフォゲッタブル』『ニューヨーク・ニューヨーク』『シャレード』『サニー』『サマータイム』など、彼女のレパートリーかな?と思わせるスタンダードナンバー24曲に、山本容子が独自の切り口による版画とエッセイで、新しい光を当てている。
名曲のエッセンスを軽妙洒脱に表現している版画もさることながら、曲にまつわるエッセイが実によくできていて、まるでライナーノーツを読んでいるような趣きがある。その曲が生まれた時代背景などに関する知識が豊富なうえに、洞察力と想像力が素晴らしく、しかも文章がとてもセクシーなのだ。
また、この本のために録音されたオリジナルCDは、ジャズ・ピアニストで作編曲家の谷川賢作(谷川俊太郎の息子さんですね)プロデュースによる24のナンバーが、どれも小編成による緊密な演奏で、アットホームな温かみを感じさせる仕上がりになっている。
馴染みの曲を聴きながら、その曲にインスパイアされた版画とエッセイを同時に味わえる。山本容子から贈られた極上の時間を心ゆくまで楽しめる、大人の絵本。これからの季節、プレゼントにもぴったりです。