武道小説ではありません。
合気道に造詣のある今野敏ですから、読み応えはありますが、それはほんのおまけです。
これは、すべての若者と、かつて若くあった者たち、作者自身の若くあった頃、
若くあったすべての時代に対するシンパシィの物語です。
だからといって、「青春」に対する「オマージュ」などでは決してありません。
地に足のついていたはずの、振り返るとわけのわからない、
しかし確かにあった「憧れ」に対する共感の物語です。
「姿三四郎」ではくくりきれない、現在にも生きる、「若者」の姿が、
西郷四郎のたった五尺の体躯にあります。
そのまま講道館に在れば、どのような地位を得たか。
にもかかわらず、そうでない「アンビション」をなぜ望んだか。
人生の「結果」はどうあれ、その「徒労」を支持するものでありたい。
今野敏の言いたいことは、そういうことだと思います。
これは「警察小説シリーズ」等の傑作とは別路線の、今野敏の最高傑作なんじゃないでしょうか?