山の上ホテルを語るときに、創業者である吉田俊男のエピソードは欠かせない。彼は経営者であると同時に、山の上ホテルそのものといってよかった。彼が目指したのはサービスと安心とが行き届いた良質な「小さなホテル」だった。「もし、人が他人に与へられる最高のものが誠意と真実であるなら、ホテルがお客様に差し上げられるものもそれ以外にはないはず」と吉田は記している。その理想を実現するために、吉田は従業員たちに多くを求めた。そのために辞める者が絶えなかったという。彼が求めたのは「誠実さ」に裏打ちされた職人気質だった。しかも、山の上ホテルの理想を実現するのにかなった職人気質である。著者はそれを「ホテル屋」という言葉で表現している。
インタビューや、吉田が残したメモ書きから浮かび上がってくるのは、頑固で職人肌で、生活に質実を求める男の姿であり、同時に食通で、ホテルの広告コピーをひねり出す文学者肌を持った男の姿だ。「良質のものは、いつも少ししかない」と著者は言う。読み終えたとき、読者はその言葉に頷くと同時に、その「良質」なるものにに触れてみたいと思うに違いないだろう。(文月 達) --このテキストは、 単行本 版に関連付けられています。
最大の特徴は志の高さだろう。規模の拡大を望まず、徹底して「良いサービスとうまい食べ物」を提供する経営方針。「幾分古びた、くすんだ、ホテルです。静けさと、味のお求めに応じる文化人のホテルです」とは、創業者吉田俊男が自ら考え、月刊誌「文藝春秋」などで使った広告コピーだが、その毅然とした姿勢が伝わってくる。
池波正太郎、山口瞳、高見順、三島由紀夫など昭和文壇のそうそうたる顔ぶれが常宿としていたことでも知られるこのホテルを一代で創り上げた吉田は、サラリーマンから転身した異色の創業者。独自の経営姿勢と人柄が、親子関係にも似た強い絆で結ばれた社員達の口から熱く語られる。
( 稲田由美子)
(日経レストラン 2002/12/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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