石井克人監督が、清水宏監督の1938年の作品「按摩と女」を発見し、リメイクならぬ「カヴァー」した作品。私が今年上半期に視た邦画では屈指の出来で、DVD発売が待ち遠しい。「按摩と女」を観た人は、本作が「按摩と女」を実に忠実に再現したものであることに驚くだろうが(近所のシネコンで本作を1000円で公開していたのは、脚本作りの手間が省けたからか? お蔭で2回劇場に足を運ぶことができた)、「按摩と女」を知らない人でも、まるで自分が古きよき時代のひなびた温泉場の客になったかのようなゆったりとした気分に浸れることは間違いなかろう。「按摩と女」を忠実になぞるとしても、今の日本であの心が洗われるような情緒を作り出すのは相当困難だろうに、それを成し遂げた石井監督達スタッフの努力には脱帽する。冒頭の草薙剛と加瀬亮演じる按摩2人が、目明きを追い越し、行き交う人達がどんな人かをまるで目が見えるように語らいながら山道を急ぐ冒頭の場面から作品に引き込まれる。その緑の清々しい美しさ。「按摩と女」は白黒映画であるのに対し、本作は自然やしっとりした温泉場の風情、旅館の室内に至るまでカラー映画ならではの、派手ではない色彩を生かした映像美に満ちている。そこに昔の作品を「カヴァー」することの意義の一つがある。
按摩達の行動・言動はハンディや暗さを全く感じさせない。特に積極的に行動し、小さな事件を解決しようとする徳市役への草薙剛の起用は大正解。マイコも戦前の女性の清楚な気品が自然に滲み出る好演。清冽な滝や川の流れを前にした場面が涼やかでよい。その他、三浦友和、堤真一、出番は少ないが渡辺えり子等、キャスト全員、演技は申し分ない。日本人に生まれて良かったと心の底から思える、奇跡的な美とさわやかさ満点の、永く心に残る傑作として、私は本作を高く評価する。