これまでの日本のトラウマ学の欠落部分に見事に光をあててくれる好著であり、翻訳も秀逸である。翻訳にかかわっておられる宮地尚子氏の著書、翻訳書にはいつも教えられることが多く、日本にもこんなに力量のある研究者兼臨床家がいるんだと感慨深い。本書の内容はタイトルの通り少年への性的虐待について多面的に余すところなく論じ、かつ臨床へと焦点づけられている。少年や男性への性的虐待に関して治療理論にまで踏み込んだ類書がまったく存在しない日本の現状では本書が出版されたことの意義ははかりしれないほど大きい。個々の臨床記録の部分は読むとフラッシュバックを起こす方がいると思われるほどリアルであるが、いままで当事者にも否認と忘却の対象であったものを明るみにだし、きちんと回復への道筋をしめすためには必要なことであろう。理論的にも精神分析学とパットナムの解離理論をうまく恊働させており興味深い。重篤な性的虐待の被害者の示す解離症状や自我の病理的組織化、性的行動化などを治療実践のなかでときほぐしていくために、著者は精神分析学者としてのキャリアに固執するのではなく患者を理解するために最善と思われる柔軟な構えをしめしている。非常に好感が持てるし臨床家としての誠実さをも感じた。巻末の参考文献一覧も大変貴重であり勉強をするうえでありがたい。