カザフスタンの一大叙事詩が翻訳された.著者イリヤス・エセンベリンは孤児院からたたき上げた彼の国の大作家である.かつてこの地を舞台に,チンギス=ハンやチムールを初めとする英雄たちの血が混じり合いながら沸騰していた.強力な部族社会の大草原で繰り広げられる戦国時代.島国日本の農耕・漁労民族の尺度では測りきれない物語展開もある.この流れはあるいは現代にまで通じているのかもしれない.訳者の加藤九祚氏は長年にわたって活躍されている.加藤氏の諸著作から,シベリアに,そして中央アジアについて刮目した思いの読者も多いだろう.本書は十分なボリュームがあるが,300年にわたる歴史を記した三部作の第一部らしい.続巻が待たれる.現代のカザフスタンや元朝〜モンゴルの歴史に興味のある方,シルクロードのファン,「蒼き狼」「モンゴル大紀行」「乙嫁語り」の読者にもお薦めの一冊か.後半に掲載されたスルタノフの論文「中世カザフ(人)の社会・経済・生活」も理解に大いに役立つ.
蒼き狼 (新潮文庫)モンゴル大紀行 (朝日文庫)乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)