檀一雄が盟友太宰治について書いた本。いい文章だ。面白い。
檀が太宰にひどい待ちぼうけを食わされ(経緯は省略)、檀が「ずっと待ってたんだぞ」と太宰に詰め寄ったとき、太宰が発した言葉がいい。
「待つ身がつらいかね。待たせる身がつらいかね」
たしかにキミはボクをずっと待っていた。ボクはそれを知っていながら、待たせることしかできなかったのだ。そのボクの気持ちがキミにはわからないのか。
これほど太宰らしい表現はないように思う。決して太宰は、待たせていることをひとときも忘れず、気に病んでいたというわけではないのだ。でも、問い詰められると、ついこんな言葉が出てくる。こういうズルイ太宰にファンはころっとやられてしまう。いやー、太宰って、やっぱりいいな。
タイプは違えど、檀も「火宅の人」である。「どうしようもない自分」を知っている。そんな檀の書いた次の文章がいい。
「(太宰は)例のそのチャーミングな微笑を口許に浮かべながら、自分が招来した運命の背に、ちょうど曲馬団の玉乗りのふうに乗っていた。乗りながら、足許を掻きさらいそうな、頼りない自分自身を静かにねぎらい合っていた。あれが青春というものだ」