「小説永井荷風伝」は荷風の死から八ヵ月後に発表したもの。
「小説」であり「伝」でもあるというのがミソ。
佐藤春夫は少年時代から永井荷風に心酔し、果ては慶応で教えを受けたほどであり、荷風の良き理解者ではあるものの、一筋縄ではいかない関係と言うか、荷風に対して複雑で屈折した感情を抱いていたというのが全編からにじみ出ている。
永井荷風を解くキーワードとして「エディプス・コンプレックス」「孤独な生活者」「形影相弔」「わびしい」といった言葉や、荷風自身の不徹底さ、自己の孤独やわびしさをトコトン徹底的に追及し突き放していく姿勢の欠如(荷風の女好きは、単に孤独を慰める手段でしかなかったと喝破するが)。無論ソレはそれで荷風の文学的業績を貶めるものではないとも語っているのだが。
コレを発表したことを機に起こった中村光太郎との論争では感情的な反論に終始してしまっていたそうな。たぶん佐藤春夫のほうに、感情的に整理仕切れてない部分が多々あったためなのかな。
収録作は他に、「荷風雑感」の二編と「夢に荷風先生を見る記」。
とりあえず、荷風歿後50年とのことだそうな。