開高健とジョン・レノンの文字に惹かれた。著者はフライフィッシングをやるそうで、作中にも釣りのシーンが出てくる。しかしこの作品はいわゆる釣り文学にカテゴライズされる本ではない。
開高健と行った英国の旅先でであった車椅子の男、キャンディーズをネタにせっけんを押し売りしようとする東北の老婆、歌舞伎をみて号泣するレノンとそれをあやすヨーコ。作者の人間を見つめる視線は冷静で粘りづよく、あたたかく強靭だ。ことに作者がじっさいに乗船したという蟹工船内部の人間関係の描写は、実体験だけに迫力満点だ。
思わず笑いを誘われる小粋な短篇も収録されていて、このスケール感と奥行きの深さは日本人作家にはめずらしい。読みやすいのにザラリと残る文体は作者独自のものだ。随所へ無造作にちりばめられた警句や箴言の切れ味は、作者のプロフィールをみて納得した。
デビュー当時のヘミングウエイの短篇集を彷彿とさせる味わいある一冊だ。おもしろい作家を見つけた。