本巻は、隋の煬帝の失政とその哀れな最後、その後群雄割拠の時期を経て、唐が中国を統一し、武則天による中断を挟むものの、太宗による「貞観の治」、玄宗による「開元の治」を中心に大帝国の絶頂期を迎えたのもつかの間、権力の腐敗が忍び寄り、安史の乱が勃発、顔真卿・郭子儀ら忠臣の獅子奮迅の活躍もあって安史の乱が終息するが、盛唐の時代も終わりを迎えるところまでをカバーしています。このうち、隋末・唐初の混乱期は隋等演義で取り上げられ、日本でも田中芳樹氏等の良書もありますが、多彩な人物が入り乱れて「中原に鹿を追う」波乱の時代であったことはあまり知られていないのではないでしょうか。本書では100頁以上を割いて紹介してくれます。そして意外と知られていないのは、貞観の治も開元の治もライバルの粛清から始まったという事実。食うか食われるかの時代だったのですね。また、この時代は好き嫌いはあるでしょうが、女性が華を添えた時代。武則天が中国史唯一の女帝にまでステップ・アップしていく過程には読者は引き込まれずにはいられないでしょう。彼女は優れた政治家でしたが、晩年は君側の奸の跋扈を許し、寂しい死を迎えます。奸臣が除かれ、唐が復活する場面は気分が晴れ晴れします。そして楊貴妃。親戚の不良少年あがりの楊国忠が台頭して玄宗側近の座を安禄山と争ったのが安史の乱の直接の原因。長安をのがれたところで軍がストライキを起こし、軍の要求に屈した玄宗が彼女を殺させる場面は、哀れな女の最後として本書のクライマックスと言えるでしょう。著名な人物が多数登場して波乱万丈の人生模様を織り成す本巻も、歴史の面白さを満喫させてくれます。欲を言えば、政変に巻き込まれた李白・杜甫・王維といった大詩人も取り上げていたらもっと充実した本になったでしょう。