日本を深く愛したハーンの筆になる、まさに珠玉のような48編の短編からなっている。
どれをとっても、心に残るものばかりだ。私が薦めたいのは、まず「草ひばり」である。ハーンは、人によって孵化されたこの小さな虫の音の中に、遠い祖先たちの野辺の夜の生を聴く。深い共感と、悲しい美しさに満ちた小編である。
「やぶられた約束」は、亡き妻の、死を越えた愛情のもたらす、凄惨な結末を描いて、読んだ人の心に一生残るだろう。しかし、学生の時に読んだ印象と、人生の半ばを過ぎてから読む時の印象は全く違う。ハーンがこの話に、どんな思いを込めたのかを考えることも面白いだろう。
端正な原文の味わいを、上田氏の訳文は十分伝えていると思う。原文と比べてみるのも面白いだろう。
海外でハーンを愛する人に、出会ったことがある。日本文化研究で知られたスパーリング氏である。ハーンの一節を引用したら、それだけで、心が通じたようだった。別れのときに、彼はなかなか握手した手を離さなかった。彼のように、ハーンによって日本に出会い、日本文化を学んだ人は多い。ハーンの描いた日本の美が、どのようなものであるかを知ることは、現代の日本人にとっても意味のあることであろう。