小林秀雄氏の批評スタイルは、例えば会ったこともない江戸の儒学者やデカルト等の文章を読み込みながら、彼らが考えたことを「私はこう見た」と啖呵を切ってみせるもので、自分の批評家としての眼を特権化したものだった。面白いことに彼はそんな自分の眼の正しいことを「常識」によって裏付けて正当化しようとするのだが、本来これは彼の批評スタイルとは真逆のロジックである。このような批判は、本書以降も柄谷氏自身や浅田彰氏によって何度も反復されるのだが、本書の特徴は「交通」をキーワードに小林批評と日本近代文学に欠けているものを指摘しようとしたところにあるだろう。逆に、その後の彼らの文章を読み込んでいる読者には、お馴染みの内容であるが故に新鮮味自体は薄いので、星は渋めに付けた。
それにしても、小林氏存命中にも関わらずこんな企画名で対談していることからも、いかに当時のこの二人が期待の若手として怖いもの知らずで暴れまわっていたかということが分かる。また例えば以下のこんなやり取りに、二人の親密さが感じられるのも微笑ましい。
中上「あなたにあるのは交通の自信ですか?それは何によるんですかね。」
柄谷「自信はない。自信がある人は、井の中の蛙だけだよ。」(本書70ページ)
柄谷氏がこんな率直なやり取りを行うのは、中上氏だけだったろう。本書の一番の読みどころは、まだ若かった二人のこんな活きの良さと同士熱が随所に感じられるところである。