はやぶさの「奇跡」がどのくらい本当の奇跡だったかがよくわかる一冊です。
第1部”「はやぶさ」の飛行計画”で最初にプロジェクトマネージャーの川口淳一郎先生が「なぜはやぶさだったのか」を概括します。
ここだけでも新事実が山盛りあって、他の類書にないことが次々に提示されています。
第2部”「はやぶさ」の飛行計画の全貌”としてはやぶさに搭載された各技術のメイン担当者が寄稿しています。
「はやぶさ」が無事に打ち上げられるまでが既に綱渡りの連続で、どの蹉跌ひとつとってもそれだけで「彼」はこの世に産み落とされなかったのではないかとはらはらさせられる内容です。
「彼」が本当に空を飛び、そして地球に戻ってきたことは『本当の奇跡』だと実感しました。
そしてその『奇跡』を呼び込んだ、「はやぶさ」プロジェクトチームに結集した頭脳集団の知恵と熱意と創造力の凄まじさ。
それそれが戦いを勝ち抜いてきた、そのジャンルの専門家、一流の科学者たちです。己のプライドと人生を賭けて「何が何でも成功させる」という強い意識と高い目的意識を持ち、全員が一丸となって「彼」と一緒にはたらいた。
その熱く濃密な時間の軌跡がこの一冊に詰まっています。
すごさの中身。
それを実感させられました。
難しい用語は必ず説明があり、どなたも適切でおさえた筆致で素人でも十分理解可能です。超一流の人の話はどんなジャンルであっても必ず平明で面白く、とてもためになるものですが、工学、理学関係者以外でもどきどきしながら読み進むうちに「はやぶさ」の全貌の一端を噛み砕かれた知識として自然に身につけることができそうです。
個人的にはあの「ラストショット」のさらに後に、「はやぶさ」君がもう一枚、写真を撮影できていてメモリには確かに残されていたはずだった……という部分に衝撃を受けました。
あの「涙でにじんだ」ラストショットと同じ姿勢で同じ方角を撮影したので「何か」は撮像されていた、けれどもそれを送信する前に「はやぶさ」君は地球の裏にまわりこみ、電力を消費しきって「意識がないまま」地球の風になっていった。
『はやぶさ、そうまでして君は』で川口先生はそのようすを「苦しまなくてよかったかもしれない」と書かれています……。
「はやぶさ」君が最後の最後に「見た」ものが一体なんだったのか。
「彼」はひとりでそれを胸に抱きしめて地球の大気に溶け込みました。
地球で待ちわびていた先生たちに、本当は見せたくて辛かったのか、それとも最後の秘密として内緒にしたまま微笑みながら死んだのか。
今まさに宇宙をめざして始動している「彼」の弟「はやぶさ2」は、亡くなった兄よりもひとまわり体も大きく、生命線であるイオンエンジンも倍増されて、あらゆる機能がバージョンアップされています。
「宇宙では探査機の状態を”見る”ことができない」と川口先生はおっしゃいます。「見たかった」と。どこが故障し何が原因だったのかをこの目で見たかった、とおっしゃいます。
燃え尽きてしまった「はやぶさ」君が残したエントリーカプセルにほんの少しだけ残ったアンビリカルケーブルを見つめる川口先生の、無限の愛情と慈悲のこもったあのまなざしが、日本の宇宙開発における、誠実さと高貴さと、不屈の意志との象徴に感じられたのは私だけではないはずです。
「はやぶさ2」はきっと、彼の兄の苦難の道から得た知識を反映して、地上との連携ももっと緊密にできるでしょうし、必ずや彼の兄よりも賢く、強く、そして再び人類のために、空を舞ってくれるだろうと信じます。
そして今度こそ私たち国民は「彼」の弟の誕生からすべてをきちんと見守って、応援し続けていこうではありませんか!
惑星探査の運用は長いです、予算の削減や無理な組織改変などで妨害されてはなりません。
宇宙について知ることは地球について知ることです。
私たち人類の来歴から行く末までを、「はやぶさ」も「はやぶさ2」も大きな灯りで明るく照らしているのです。
私は、たくさんの喜びや感動を知りましたが、「はやぶさ」の活躍、「彼」の一生を知ることができただけでも、今の時代、今の地球に、日本人として生まれてこられて本当に良かったと思います。
ありがとう、「はやぶさ」。ありがとう、「彼」を生み、育て、帰還させてくださった大勢の関係者の皆様方。
「はやぶさ」は、今も私の心で自由に空を飛んでいます。