長い出張に行くことになりそのときに読む本としてふと手に取った。
「小僧の神様」を始め作者自選の11の短編が集められている。
「小僧の神様」:寿司を食べたくて立ち食い寿司に入った少年が寿司を掴むと、その値段を聞き払えず、食べずにすごすごと店を出て行く。それを見ていた男性が何故おごってあげなかったんだろうと悔いる。偶然、その男性がその少年が働いている店に行き少年と遭う。そして少年を連れ出し、何も言わずに寿司を食べたいだけ食べさせ消える。男性はその行為に淋しさを覚え、一方、少年はその男性をお稲荷様かも知れないと感じる。そんな二人の気持ちの葛藤が何とも言えず、現代では何か忘れ去られた感覚を思い起こさせる。現代ならおごってあげたら人に自慢したい気持ちが出てくるかも。おごってもらった少年はまた次のうまい話しがないか探すかも。そんな感覚とは違う敬虔な何かが感じられる。
「正義派」:路面電車の運転手の過失と思しき事故で少女が亡くなる。それを見ていた工夫(こうふ)が三人。警察に行き運転手の過失だったと言うが警察も過失とも言えないと判断。警察を出た工夫らは何か正義感にかられ、会う人会う人に事故を見たこと、過失に違いないことを話す。その話している自分に酔ってくるが最後事故現場に戻り全ての虚しさを感じ泣き伏す。こんな感じあるよなと思わせる作品。
11作分書こうかと思ったが冗舌なるのでこれで留める。
日常生活に起こったちょっとした心の機微を捉え、それを文章に落とし込む、と言うのがこの作者の持ち味なのだと感じた。
その心の機微が今の現代の感覚で言うと何か忘れ去られた感情で、それをしみじみ味わえるのが何とも言えない心地よさである。