百貨店につとめながら、完成することのない百科辞典の執筆にいそしみ、〈ロンリー・ハーツ読書倶楽部〉に参加する「小さな男」。
「静かな声」にひそかなファンの多いラジオのパーソナリティ、静香さん。
この物語に主人公というものがあるとすれば、そのふたり、ということになる。
「ささやかなもの」を積み上げて物語をつくることの、吉田篤弘さんは天才だ。
大好きな「それからはスープのことばかり考えて暮らした」や「つむじ風食堂の夜」のころから、その世界観は変わらない。
くすくす笑いながら読みすすめて、「目にみえないところで世界はつながっているのだなあ」と心がしんとして、それから最後に、積み上げてきたすべてが頭のなかでぴぴっと化学反応を起こし、背すじがぞくぞくする。
「小さな男*静かな声」は、これまでに読んだ吉田篤弘さんの本の中でも、いちばんと言っていいほどラストがいい。
最後の一行を読み終え、静かに背表紙を閉じるころには、確実に心があたたまっている。
それが午後なら「紅茶でもいれて空を見ようかね」という気分になるし、夜眠る前なら「いい夢みられそうだ」と思う。
日曜の深夜一時、ラジオをつけると「静かな声」が自転車の魅力を語りはじめる物語の世界に、わたしも暮らしたい。