本書のタイトルは、内容を正確に表していません。実際は、スイス旅行に関するページは3分の1程度。他は、バスク地方の旅行が3分の1、小学校の淡い記憶を辿る中編が残りの3分の1という配分です。さらに「小さな家」についての記述は、写真を含めて5ページほど。「小さな家」を訪れるのが旅のきっかけだったようではありますが、週に一度のオープン・デイと旅程が合わず、外から眺めるだけで終わっています。
一つ一つのエッセイも、本全体も短くあっさりしていて、それだけで気楽に読みやすいと感じる方もいらっしゃるのかもしれません。しかし、せっかく羨ましいような個人旅行(時間とお金と経験が必要)なのだから、タイトル通りスイス旅行だけで一冊分書いて欲しかったというのが正直なところ。これでは、著者の旅行の覚え書き、さらっとした寄せ集めといった印象を拭えないのでは?
加えて、文字の描写では伝わりにくい、レストラン・ホテルの様子、テーブルウェアの色やデザイン、料理の盛り付けなどは、写真をより豊富にして文章と一緒に載せて欲しかったと思います。写真やスケッチをまとめたページと、文章のページとを完全に分離する構成は、本自体をすっきり見せる効果を狙っているのかもしれませんが、文章と写真の順序も一致しておらず、この観点からすれば決して読みやすくはないと思います。
著者は料理スタイリストという肩書きですが、料理のみならず生活全般について、センスの良い目の付け所が評価されているのだと思います。しかし、皮肉っぽく言えば、小洒落たモノ(主に欧州の地方)への鋭い嗅覚だけで、カッコばかりで中身が無いという表現がぴたりと当てはまってしまうように思えます。
著者も自覚する「知りたがり屋のクセ」だけに終始しているようでは、本書に度々出てくる「基本がきちんとして丁寧に作られた、しっかりした味のあるパン」のような本にはなるべくもないでしょう。