カースト問題、大家族制度、警察の腐敗、政治運動、などといったインドの社会問題を多く含みながらも、印象に残るのはあざやかな色彩、南国の風景、雨の匂い、美しい家族といった詩的な情景ばかりなのは、子どもの視点で書かれているからだろうか。子どもの生きている世界は、同じ時間と空間を共有していても、大人の世界とは全然違う。そこには理屈も批判も時間の流れさえもない。子どもは、ただあるがままに目に映し、匂いを嗅ぎ、手触りを感じ、大きな人たちの声を聞き、自分に理解できるほんの少しのことだけを理解して、小さな世界で生きている。小さくて、不自由で、豊かで、幸せな世界。アルンダティ・ロイの、やわらかでユーモアに満ちた文体も、取りとめのない子どもの頭の中をよく表現していて、素晴しい。