本書は第三世代の行動療法をベースにおいて書かれている本である。第三世代というとマインドフルネスやアクセプタンス・コミットメントなどが頭に浮かぶが、基本的には第一世代への回帰、徹底的な行動主義がその本質にあるようだ。そして第二世代の「認知」ということに対する批判もそこには含まれている。
著者の原井は熊本の山上敏子先生の指導の元で行動療法を学んでおり、その影響を強く受けている。それは本書のあちこちでも見られるところである。行動療法を方法として位置づけ、そこに特別の価値観や大理論をすえることなく、如何にケースに適用していくのかをトコトン考える姿勢はまさに山上流と言える。
そして、副題に「マニュアルから抜け出す」というだけあり、基本的な行動療法の概念をある程度は知っていることを前提にして書かれているので、中級者・上級者向けであると言える。CBTは疾患別にパッケージが作られているところもあるが、それを鵜呑みにして機械的に適用していくのではなく、行動療法の基本的なことをしっかりと見につけ、そこから実践に応用していくことが大事であると著者は語っている。
また、第6章では疾患別の説明があり、そこではパニック障害に対するエクスポージャーとして、「内部感覚エクスポージャー」が紹介されている。パニック障害は広場恐怖を伴うことが多く、エクスポージャーもその恐怖場面に出向くことを課題にすることが多いだろう。しかし、本書では内部感覚そのものに対してエクスポージャーをしており、その点で般化を促しやすいのかもしれない。具体的にはカフェインを飲む、回転する、高いところから飛び降りる、などの内部感覚を活性化することを繰り返し行い、その感覚をじっくりと体験することを行っている。
さらに同じく第6章ではベンゾジアゼピンの常用量依存に対する行動療法も紹介されている。ベンゾジアゼピンは比較的安全な抗不安薬であるが、安全であるがゆえに安易に処方され、安全であるがゆえ、繰り返し服用されてしまうことが多い。その為、ベンゾジアゼピン依存を作り出してしまうのである。これに対する行動療法も行われているが、その過程ではやはり薬の調整ということも行わねばならないので、薬を自由に調整できる医師が実施することがやはり良いのかも知れない。薬を扱えない臨床心理士がベンゾジアゼピン依存に対する行動療法を行うのは少々難しいようにも思う。