「寺社の装飾彫刻」に着目して、全国の神社仏閣650ヵ所の彫刻を撮影してこられたカメラマン・若林純さんの努力の結晶とでもいうべき労作でした。
本書でも書かれていますが、一部の社寺の装飾を除いてこれまであまり関心をもって眺めてこなかった装飾彫刻でしたが、これだけの質の高いものが全国に存在しているわけで、彫刻史や建築史のはざまにあるジャンルのように感じております。灯台もと暗しの感を強くしました。
オールカラーで、関東甲信越地域を中心に全国111社寺に掲げられている装飾彫刻の写真が約700枚掲載してありました。網羅性と資料としての役割を考えると価値ある出版だと高く評価しています。
彫刻家で東京芸術大学教授の藪内佐斗司氏の「日本の木彫ふたつの流れ'仏像彫刻と建築装飾」では、材質に着目しての木造彫刻や仏像彫刻の流れを俯瞰して紹介してありました。岸和田のだんじりの繊細な彫刻にも触れていましたが、私もその点から本書に関心を持ったわけです。
「江戸の寺社彫刻の源流」で取り上げられている「日光東照宮」は、冒頭3ページにわたり、絢爛豪華な装飾芸術の冴えを披露しています。「『宮彫り』隆盛の契機となった」の素晴らしさは類書で語られていましたが、ここは本書の導入部分に過ぎませんでした。
「江戸期以前の寺社彫刻」で伏見城遺構と伝えられている「西本願寺唐門」から6点掲載してあります。これだけ細部の彫刻をクローズアップしてもらう鮮明に理解できます。「北野天満宮」「石清水八幡宮」など良く見知っている神社の装飾をいかに見落としてきたかを顧みています。
「宮彫り百花繚乱」では、120ページのボリュームで江戸から大正時代にかけての作られた全国の社寺の装飾彫刻を掲載しており眺めるだけで圧倒される思いでした。
彫物の江戸時代、さまざまな主題、立体化した「絵解き」の世界、「未知の鉱脈」を探る写真家という項目が続きます。霊獣や七福神など、特定のテーマの伝播を見受けられました。
掲載寺社一覧には、それぞれの所在地、竣工、棟梁、写真の解説などが記してあります。若林さんの「魅力尽きぬ彫刻群'あとがきにかえて」の一文で締めくくられていました。