寺田寅彦は漱石の弟子であり、文学に造詣が深い。
本書は、連句や映画についての書きものが含まれるが、
物理学を伝統から解放しようとの強い意志が感じられる
論考が混じっている。
「日常身辺の物理的諸問題」では、当時の新しい物理学の
出現を背景に、古典的統計学の破産と新しい統計学の関係が
書かれている。
「量的と質的と統計的」では、現実の実証的研究を、自然界
にいかに多様な統計現象が起こっているかをしらみつぶしに
調べる必要が語られている。
「物理学圏外の物理的現象」では、例の金平糖の角の非対称
性をはじめいわゆる物理の範疇外の物理現象の考察の可能性
が指摘されている。
最後のほうで、漱石の思い出が語られているのも興味深い。
ある時、頼まれて、「光圧の測定」についてニコルスの実験の
説明をしたが、これが「三四郎」の野々宮さんの地下室での
実験の描写になった、ということである。