毎回、同じような内容なのに、まったく飽きさせないほど、西村さんの文章は秀逸です。時代は平成なのに、なぜか昭和40年代のような匂いを漂わせているのは、ひとえに西村さんの文学的筆力、知性の成せる技でしょうか。
今回も恋人「秋絵」シリーズですが、ひょんなことからキレまくり、ありったけの屁理屈を彼女に浴びせまくるシーンは、笑う場面じゃないのに、笑ってしまいます。
表題作「寒灯」では、大晦日に秋恵が彼(貫多)のために、年越しそばの出汁を鰹節から本格的に取ってくれるのですが、些細なことが引き金になって、癇癪を起こし、暴言を吐く。
「肩先に花の香りを残す人」は、タイトルが情緒溢れていますが、秋絵が中年男性が愛用する整髪料の匂いが気にならないと言うと、「頭も顔も悪く、そのうえ鼻も悪いときたら、取り柄がないじゃねえか、蓄膿女め!!」と無神経な事を口走る。
また「腐泥の果実」では、貫多の誕生日に、理由あって秋絵の帰宅が遅く、あまつさえ食事の時間も散々待たされ、「ビフテキじゃ腹の足しにならねぇよ、カツが食べたいから、パン粉を買ってこい!」とキレまくる。
キレるきっかけが、全くもって子供じみていますが、よくあれだけつらつらと暴言が吐けるなあ、とボギャブラリーの豊富さと頭の回転の良さに敬服してしまいます(笑)。
どうせ最後はキレてまた反省、この繰り返しですが、水戸黄門様の印籠の如く、「さぁ、そろそろキレるぞ、ほ〜ら、出たぁ!!」という感じで楽しませてもらっています。
西村さんがこの無尽蔵のエネルギーを発散できずに持て余し、苦しくならないためにも、今後も末永く私小説作家として、読者を魅了してほしいものです。