ヒマな人向きの本。エッセイの達人が書いただけあって、非常に読みやすい。すらすらと数時間で読める。だが、著者には、特定の強い切迫した問題意識が感じられない。だから、本格的ノンフィクションというよりは、ロスチャイルド家観光ガイド的な読み物にとどまっている。
池内紀氏が、この本の母体となる記事を執筆し始めたきっかけは、1994年にフランクフルトのユダヤ博物館で、大規模な展覧会「ロスチャイルド ――あるヨーロッパの一族」を見学したことだったという。始まりが見物(けんぶつ)だったせいか、著作も最後まで傍観者的視点に終始している。
一族のだれかに直接取材するというような努力は行なっていないようだ。十数年にわたって膨大な資料を読み込んだとのことだが、それにしては、巻末の参考文献リストは、あまりにも短い。
ロスチャイルド家の人々と、ヨーロッパの歴史・政治・経済・文化との関わりを深く掘り下げた本を期待する人は、ほかを当たったほうがいいだろう。
研究者にとっての資料的価値は、ほとんどなさそうな本だ。巻末の系図と年表は見やすくて便利だが、索引は付いていない。200数十ページの、比較的薄い本だから、索引など不要と思われたのかもしれない。
ロスチャイルド家について、まったく何も知らない人にとっての最初の一冊としては、悪くないと思う。池内氏の持ち前のわかりやすい語り口は、この本でも活かされている。