砂川警部と志木刑事が、密造拳銃を所持した、ある事件の犯人を逮捕しようとした
際、その混乱に紛れ、彼の所持していた密造拳銃が何者かに持ち去られてしまう。
やがて、その拳銃で射殺されたホームレスの松金正造の死体が、海岸で発見される。
松金に恩があった戸村流平は、探偵の鵜飼杜夫とともに、現場に供養に訪れるのだが、
そこで、すぐ近くに住む、十条寺食品の会長・十条寺十三と孫娘のさくらと知り合う。
流平が誇張して伝えた、鵜飼の名探偵ぶりに感心した十三
は、さくらの花婿候補三人の信用調査を、鵜飼に依頼する。
滞納した家賃を支払うため、しぶしぶ依頼を引き受けた鵜飼は、一ヶ月後、調査報告に
十条寺邸を訪れたのだが、そこで、持ち去られた銃が使われた事件に遭遇してしまい……。
《衆人環視の密室》からの犯人消失が扱われている本作に
おいて、謎を解く鍵となるのが持ち去られた密造拳銃です。
密造拳銃の装弾数は、最大で八発(当然、実際には
それ以下の弾しか込められていない可能性もある)。
それらの弾が、それぞれ、どの段階で撃たれた
かを解明していくのが、本作の主眼となります。
本作の犯行には、犯人の揺るぎない覚悟が不可欠なのですが、それを持つに足る動機が
設定されているだけでなく、直接的な犯行手段に、被害者を断罪する象徴的意味合いが
込められているのが秀逸です。
また、海岸になぜか放置されていた骨付き肉という魅力的な謎や、コミカルな
やり取りのなかに、さりげなく真相究明の手がかりを紛れ込ませるテクニック
など、作者が細部に凝らした技巧も見逃せません。