プロローグのタイトル「昔、僕は席亭になるのが夢だった」からもわかるような、自分とその好みに正直な寄席論である。安藤鶴夫(アンツル)さんの著作に感じる「ちょっと自分とは住む世界が違うな・・・・・・」という違和感がなく、牛込矢来町に生まれ育った著者が、寄席や芸人に対して、まずはそのタフな胃袋ですべてを呑み込んで咀嚼して、その後で残った自分の芸論をぽつぽつ語った、そんな印象の本。しかし、さすがに直木賞作家である。たとえば、三笑亭可楽(八代目)のその真髄を「一瞬の精気」と表しているあたり、読み物としての味わいも深い。また矢野誠一や立川談志との対談も楽しく読むことができる。往年の芸人さんの話などは歴史を知るための勉強と割りきってもらい、落語ブームに乗って二十代、三十代の人にも、ぜひ読んでもらいたい。