28歳で福井県西端の名田庄村診療所に赴任した中村伸一医師が、20年の経験を経て、住民から頼られる存在感のある医師に成長する物語である。地域に根ざした医療は、医師や行政からのトップダウンだけで普及するものではなく、住民自身が地域医療の主要プレイヤーであることを自覚し、「医師を育てる」段階になって、初めて効果が出ることがよく分かる。
中村医師は、自治医大出身の「ごく普通」の医師である。その中村医師が、小さな失敗や自分の過労からの入院を経て、地域の医師として育っていく。ユーモアやホロリとするエピソードも交えながら、読者も名田庄村の生活を追体験できる。
自治体や医療関係者が在宅医療に注力し、結果として医療費抑制に成功した名田庄村の事例は、どの自治体もがすぐに真似できる訳ではない。本書の最後で中村医師が振り返っているように、住民間の絆、つまりソーシャル・キャピタル(地域力)がある程度蓄積されていなければ医療関係者の努力も成果につながらない。中村医師は、名田庄村の事例を通じて、このことを見事に示している。