寂聴の作品はやっと最近数冊読んだだけです。それも中世の歴史を舞台としたものだけです。もっともその存在は知っていましたので、どちらかというとパーソナリティへの興味から読んでみました。作品の評価は実際に読んでいないのでなんともいえませんが、この旺盛な執筆活動には驚かされました。純文学、中間小説、そして伝記的な作品という広いフィールドをほぼ同時並行的に歩んできた寂聴のエネルギーは驚きの一言に尽きます。その軌跡が寂聴の私生活の変貌とともにたどられます。
ただ時々顔をのぞかせる著者のステレオタイプな歴史観には参ってしまいます。面白い視角も呈示しているのですが、この戦前と戦後の歴史を著者のいまや時代遅れとなってしまったステレオタイプで割り切ってしまうと、逆に変貌する寂聴の本質が限定されてしまうのでは。寂聴が取り上げた戦前の女性のパーソナリティ(伊藤野枝、岡本かの子たち)も、著者の「反逆」の視角からの思い入れの強い分析で持ち上げられてしまうと、彼女たちの限界と功績がその意味を失ってしまいます。最後を飾る文化寂聴の勲章のシーンとこの著者の歴史観や政治観はどうもしっくり共存しません。寂聴の出家の秘密にもそれなりに接近しているのですが、この著者の歴史観はどうも全体の中で浮き上がっています。