これは「写楽は誰?」という本ではありません。写楽は斎藤十郎兵衛としてそのまま現れます。主役は蔦屋重三郎と山東京伝かなあ。写楽の面白さは「誰?」というミステリーも一つですが、もう一つ蔦屋重三郎が立てた作戦の巧妙さにあると思っています。この本は後者の方を扱った小説です。真実も蔦屋重三郎と斎藤十郎兵衛の2人の話ではなかったと思うのですね。いろんな人が絡んでいたはず。ここの部分は色々と想いが広がって小説にしたいところでしょう。今後は「誰?」路線よりこの部分(蔦屋重三郎が立てた作戦)を取り扱った小説が増えそうです。有名な粋な通人を出せるので楽しいと思います。個人的には斎藤十郎兵衛ももっと粋な人物に仕立ててほしかったですね。それとこの本では大首絵は売れなかったことになってます。デビューの第1期ですね。このところも意見が分かれてます。売れたという論陣を張る人もいます。本当はどうだったのでしょうか?
なにせ有名人がそろって出てきますが、名前が当時の呼び名(幾五郎(十返捨一九)、鉄蔵(葛飾北斎)、倉蔵(滝沢馬琴)、伝蔵(山東京伝))なので名簿を手元に作って読んだ方がイメージが膨らんで楽しいです。上記の疑問に対してそれなりに上手くわけが考えられていて、こういう見方も出来るのかと面白く読みました。本の中では写楽の絵が売れなくって仕方がないから破れた襖に張られてるというシーンがあります。今の価値では2000万円以上らしいです。
最後に「寂しい」の意味がなかなか重くていいですよ。それぞれの「寂しい」があって写楽の話は写楽個人の物語でないところが実に楽しいですね。