東野圭吾の人気作品、探偵ガリレオ・シリーズは、これまでに、短編集が三つ、長編作が二つ出版されている。このうち短編集は、科学的トリックやオカルトをテーマに置いたユニークさは評価できるものの、その真相は、ときにマニアック過ぎたり、拍子抜けするほど見掛け倒しに終わってしまっていたりで、率直にいって、その試みは、成功しているとはいい難い。最新の長編作「聖女の救済」も、出来としては、今一つパッとしない。そんな中にあって、シリーズ中の最高傑作というだけでなく、東野圭吾の全作品の中でも、最高傑作の一つといっても過言ではない図抜けた作品が、この「容疑者Xの献身」だ。
この作品の見どころは、何といっても、凄まじいとしかいいようがないトリックの真相と、その結果、明らかとなる、凄まじいまでの純愛だろう。
この作品は、天才物理学者ガリレオと、ガリレオの同級生、天才数学者石神による頭脳勝負という、いかにも読者の興味をそそらずにはおれない設定で進められていくのだが、全ての真相が明らかになってみると、その設定が伊達ではなかったと納得できるのだ。石神の仕掛けたトリックは、2人の間で交わされる数学の難問、「人に解けない問題を作るのと、その問題を解くのとでは、どちらが難しいか」を地で行った、非常によく練り込まれた緻密なものであり、読者の想定レベルを超えた凄まじいものなのだ。
「人は、これほどまでに人を愛することができるのだろうか」、「これほど凄まじい愛情が、この世に存在するのだろうか」とまで考えさせられてしまうこの作品の壮絶なラストを読んでしまうと、科学的トリックやオカルティックな謎をテーマに据えた短編集が、底の浅い陳腐なものに思えてしまう。この作品は、東野圭吾が、ミステリと人間ドラマを高いレベルで融合させることができる彼の原点に立ち返って、探偵ガリレオ・シリーズの新境地を切り開いた素晴らしい作品だと思う。