家を建てようとして決めて読んだ三冊目の本。僕はこの本を大いに買いたいと思う。トーシローがちょっと体験を書いてみたというのではなく、長い時間ずっと家づくりについて考え実践してきた人、いい意味で本物の専門家が書いた本だと思える(著者の他の本に親しんできた人にとってこの本がどういう価値があるのかは分からない)。だから、著者が引き合いにだす家づくりの例は抜群に面白い。日本最古の木造住宅やら、コルシカ島の「墓の町」、建築と権力の癒しがたい争闘を語る利休と秀吉の話もいい。それが付け焼刃の知識ではなく、長い時間をかけ自分の足で確かめ歩いた厚みがあり、安心して読める。
家を建てようとして何かの本を読もうとするとき、多くの人は(僕もそのうちの一人)、良い家づくりなるもののコツやノウハウを手っ取り速く教えてくれることを願っていると思う。この本には、そういう役に立つ示唆も多くあるのだが(例えば、小さく住まう家づくりの工夫とか、門扉を構えることへの疑問や引き戸の再評価など)、この本の本当にいいところは、それとはちょっと違って、人が住まうことの根本を問い直すような批評感覚があることだ。『徒然草』の有名な言葉「家のつくりようは夏を旨とすべし」についても、多くの人が語っているのとは違って、著者の見方は家づくりのプロとしての責任感と説得力がある。つまり、耐え難い夏を少しでも快適に過ごせるように家を建てるべし、というのではなく、冬の寒さはいかんともしがたいが、せめて夏ぐらいはより快適に過ごせる家づくりの工夫をすべきだという風に解釈される。この著書は、個性的な分だけ読者の好き嫌いがはっきり分かれるはずだが、口当たりの良いトーシローの作文より僕はこういう本物の専門家の書いたものの方が大事であると思う。