「害虫」に関する一種の“薀蓄本”として読んでも十分に面白いが、それだけで評価するのはあまりにも勿体ない。著者本来の野望は、エピローグやあとがきに書かれている通り、自然科学もそれ自体として社会の影響から独立して自立的に発達するものではないことや、それと同様に、我々にとって「望ましい自然」や「そのための科学技術」について考えることは即ち、我々自身が自分たちにとって「望ましい社会とは何か」を考えることに他ならないのだということを、気づかせるところにあるからだ。
著者は「害虫」に対する我々の固定観念(人はそれを「常識」と呼ぶ)を次々とひっくり返して見せることで、自身の主張を裏付けていく。害虫概念の変化は、むしろそのための格好な素材だったと考えた方が良いのかもしれない。
しかしこのところ、本書と同様、自然環境の問題に対して、自然科学の分野からだけではなく、人文科学、特に社会学の分野からアプローチして行こうとする態度が一般化して来たような気がする。現在の自然環境の変化が、他でもない人間社会の変化によってもたらされたものであり、その結果として失われた自然環境の活力を回復するためには、まず人間の社会が変わる必要があることを考えるならば、それは誠に喜ばしいことである。
本書の内容はいわゆる「昆虫好き」の皆様から見れば些か物足りないものなのかもしれないが、ヒトの社会と自然の生き物との関係性に関心を持つ者にとっては、大いに学べる。少しでも多くの人々に読まれることを願う。