知っての通り、『銀河鉄道の夜』は未完成であり、初稿に3回の改稿が加えられている。この本は、原稿に基づき、そのそれぞれの稿の層を分離し、改稿の様子を対比的に読めるようにしたもの。見開き上下に、異なるフォントで、微妙に異なる4つの銀河鉄道が現れる。これだけで、この本の半分以上。だが、これも、改稿部分のみしか出ていないので、結局、つぎはぎで読みにくい。
後半は、改稿の問題を中心に、あってもなくてもいいようなコラムだの、論文だの、資料集だのがいくつか。とはいえ、よくある程度の外的な事情や些末な話ばかりで、内容的に精神性にまで踏み込んで読み込んでいる考察はなにもない。それどころか、本来、読みの中核になるべき、作品全体に繰り返し登場する鳥と鳥採り(霊魂と殺生)、カンパネルラの南十字通過(衆生救済の地獄行き)、そして、仏教とキリスト教の奇妙な融合、などにはほとんど触れずじまい。というか、まったく手に負えていない。
もちろんこういう基礎的なテキストクリティークがあればこそ、その先の読みもできるのはたしかなのだが、どうみても、専門研究者の基礎資料(と、その水増し的雑学)であって、一般読者向けではない。なんにしても、こういう表面的なあれこれに、「読む」などというタイトルつけるのは、文学における言葉と思想の死にものぐるいの格闘を、あまりになめているのではないか。